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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)1142号 判決 1976年4月27日

控訴人 斎藤隆

右訴訟代理人弁護士 谷口欣一

同 眞木吉夫

同 福田照幸

被控訴人 山本敦生

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、控訴人において、「控訴人は本件事故の発生につき運行供用者でない。すなわち、本件事故発生にあたり訴外小宮芳夫の運転していた自動車(原判決にいう被告車。以下「本件自動車」という。)は、右小宮が美容薬品のセールス販売の業務を行なうため大滝三郎名義で購入取得した小宮の所有する自動車であり、同人は右の営業のみでは生計が立たなかったので、右営業のかたわら、控訴人の経営する近代油化株式会社(以下「近代油化」という。)の多摩川店に配達員として勤務し、たまたま同店に住み込んだが、本件自動車は右近代油化の業務には全く使用せず、もっぱら小宮の美容薬品のセールス販売の業務にのみ使用していたもので、本件事故発生当時も小宮は本件自動車を近代油化に関係のない自己の私用のために運転して本件事故が発生したものであるから、控訴人は本件自動車の運行供用者ではない。」と述べ、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、甲第一号ないし第九号証の成立を認めたほか、原判決事実摘示(本件控訴人及び被控訴人に関しない部分を除く。ただし、原判決書四枚目裏一行目中「二九日間(」の下に「うち治療実日数」を加える。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一、≪証拠省略≫をあわせ考えると、原判決事実摘示請求原因1の事実のうち、被告車の所有者が東都三菱自動車販売株式会社であるとの点を除くその余の事実が認められる。

二、控訴人は、本件自動車を自己のために運行の用に供していたものではないと強く主張し、≪証拠省略≫中には右の主張に沿う部分があるけれども、≪証拠省略≫をあわせ考えると、

(1)  本件自動車は、訴外東都三菱自動車販売会社が昭和四五年一二月大滝三郎を買主名義で売り渡したものであるが、右大滝は実在する者の氏名でなく、同自動車が大滝三郎名義で買い受けられた事情は、控訴人が経営する近代油化においてはその販売する燈油の配達等のためこれに従事する従業員を必要としていたが、そのころ控訴人の友人の弟の訴外小宮芳夫(第一審被告)が美容薬品のセールスマンをしていたところ、他にも借金があり、その収入も少なく、資金も不足していたことから控訴人に対し資金の借入れを申し入れるとともに右近代油化において燈油の配達のための従業員として働きたいと申し出たので、同人に資金を融通するとともに近代油化玉川店に寝泊りさせて右の業務に従事させていたが、同人が前記美容薬品のセールス等に使用するために自動車を必要としていたので、その目的及び近人油化の業務のためにも使用する目的で本件自動車を買い受けることとしたが、同訴外人にはこれが代金を支払う能力がなかったので、控訴人においてその勤務する訴外水戸部商店から約束手形を借り受けて支払いにあて、本件自動車を近代油化の駐車場に置き、前記小宮芳夫に対しその私用に用いることも許していたが、その代金の支払いが前記のような事情でなされたためその買受名義も大滝三郎として本件自動車は控訴人の支配下に置き近代油化の仕事にも使用させてその運行の利益をえていた。

(2)  右小宮芳夫は、本件事故発生当日、仕事が終って真夜中眠れなかったので本件自動車を近代油化の駐車場から乗り出してドライブがてらに夜食をとろうと考え運転する途中本件事故を発生させたものであって、事故後小宮は本件自動車が本件事故によりかなり破損しており近代油化においても使用することがなくなったので、昭和四七年三月初旬ごろ解体屋に処分しその代金は控訴人とともに費消し、自動車に附属の部品は近代油化に返却した。

以上の事実が認められ(る)。≪証拠判断省略≫

右の事実によると、本件事故発生当時控訴人において本件自動車につき運行支配と利益を有していたものであって、従業員である小宮が私用に使用することを容認していたものであるから、右小宮が仕事が終って夜食をとるという私用のために運転し本件事故を発生させたことにつき、その運行供用者として被控訴人が蒙った損害を賠償する責任があるものといわなければならない。

三、右のように控訴人は自動車損害賠償保障法三条により本件自動車の運行供用者としての責任があるというべきところ、≪証拠省略≫によると、被控訴人は本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、昭和四七年二月一三日から同年三月二八日まで入院治療一六日、通院治療五日を受け、治療費四万三八九八円を要した事実が認められ、さらに右の事実によると被控訴人は附添看護料二万四〇〇〇円(1,500円×16=24,000円)、入通院雑費四、八〇〇円の損害を蒙ったものと推認され、また本件事故により精神上の損害として本件事故の態様、被害の状況その他本件にあらわれた一切の事情を斟酌すると金一五万円の慰藉料を相当とし、以上合計二二万二六九八円となるところ、被控訴人が弁護士高橋孝信に委任して本件訴訟を提起し第一審の訴訟遂行にあたったことは記録上明らかで、これが弁護士費用については、本件訴訟遂行の難易、その請求の認容額その他一切の事情を斟酌し右損害額の約二割にあたる金四万四〇〇〇円とするのが相当であるから、損害額合計は金二六万六六九八円となる。

四、そうすると、控訴人は被控訴人に対し金二六万六六九八円及びこれに対する本件不法行為発生の後であって本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四八年一月一二日から支払済みまで民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五、したがって、被控訴人の本訴請求を右の範囲で認容した原判決は相当であって、これが取消しを求める本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 館忠彦 安井章)

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